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Once upon a time

雨のあと

2週間ほど前に、学校で指導中に生徒に背中を噛まれました。 
3年生の男の子なんですが、自閉症気味の子供で自制心が効かなかったようです。 
呼んだのに他の生徒の指導をしていてすぐに振り向かなかった私に腹を立てて、つい噛んでしまったようでした。

噛まれたこと自体は、歯型がつく程度で大したことなかったんですが(ビックリしたけど)、私がアシストしているおばあちゃん先生は、校内で起こった教師に対する生徒の暴力行為ということで事態を私よりも深刻に受け止め、校長先生に報告しました。  

「あなただけじゃなくてね、これからの私たち教師や生徒の安全の為でもあるのよ」

先生はそうキッパリおっしゃって何の迷いもなく報告をし、何日後かには保護者を交えての校長室でのミーティングとなりました。 


2日後に校内放送で呼ばれて行った校長室で、その生徒の母親が自分の顔見知りだったということに初めて気づきました。  PTAでも書記かなにかをやっていて、それまでにも何度か会合で見かけたこともありましたが、その日の彼女は普段の社交的な笑顔ではなく、ずいぶんとこわばった面持ちでした。

悪いことには違いなくても、その男の子の取った行動には理由があったし、私には怪我もなかった。  このミーティングは、「校内暴力に対しての学校側の取った処置」ということを記録に残すためだけに開かれたものでした。  
解決させなければならないような問題もない話し合いで有意義な結果が得られるはずもなく、攻められるばかりの立場の母親は居心地の悪い思いをして、ただ座って校長先生の話を聞いているだけの私もいたたまれないような思いでした。 

「今後このようなことがないように、お子さんにもよく注意するよう言い聞かせてください」

校長先生のそんな言葉に、

「うちの息子は普段はこんなことをするような子供じゃないですから」

と少し見当違いな返事だけして部屋を出ようとしたお母さんは、私の傍を通り過ぎるときに、誰に言うでもなく、

「こんな難民なんかを雇ってるからこんなことになるのよ」

と、吐き捨てるように言いました。 

「そんな言い方はないんではないですか!?」

と少し声を大きくした校長先生の言葉は無視して、彼女はもう自分の息子をこんな学校の補習クラスに来させる気はないことだけを告げるとそのまま帰っていきました。

それ以来、せっかく打ち解けて仲良くなっていた彼とも顔を合わせることはなくなり、学校に出向く楽しみのひとつが減ってしまいました。  


「時には断ち切ることもしないとね。 引きずってばかりでは誰のサポートもできないのよ」

信頼しているおばあちゃん先生に諦めとも取れるようなアドバイスをもらうと余計に気持ちが落ち込んで、やるせなくなります。
下校時に息子達の学校での楽しい話を聞いても、身体は鉛のように重いままで疲れるばっかり。

あーあ、もうどうでもいいや。

そんな投げやりな態度で、学校から帰りました。




まだまだ夏日が続く毎日なんですが、今週の頭に2日間、たっぷり恵みの雨が降って、表庭の花壇の花が咲いてくれました。 夏中あんまりかわいがっていなかったのに、雨が降ったせいで元気をとりもどしてくれました。 たくさん咲いていた中でもとりわけ嬉しかったのが、この花です。  つぼみがひとつあったのはずい分前から気づいていたけど、なかなか開かなくて諦めていました。

雨のあと_e0014445_10235863.jpg←米名ではコロンバイン。 
ウィスコンシン州の州花だとか、本当は涼しいところに生息する植物らしいです。 球根が特価で山積みにされているのを近所のスーパーで今年の春先に見つけました。  
袋についていた写真の和紙で作った造化にも見えるような幾何学的な花びらを自分の目で観てみたくて、植える時期もよく調べないままにダメもとで植えててみました。 
ないな~と思って探していたら、お隣の「象の耳」って呼ばれる大きな葉っぱの影でこんなにきれいに咲いていました!

コロンバインと言えば、私は何年か前にこちらであった、コロンバイン高校での生徒による銃発砲乱射事件でたくさんの方が亡くなった事件を思い出すのですが、そんな血生臭い一件とは正反対に清楚でひっそりと澄んだ蒼い色に光って、こちらを見上げているようでした。




私は米国での生活を始めてからも、今まで人種差別というものをそれほど意識しなくてもやってこられるような、恵まれた環境で暮らしてきました。 出会う人に恵まれているのだと思うのですが、人種差別にまつわる悲しい思いは今まであまりしたことがありません
日本人の私は、その生徒のお母さんが苦し紛れに言った「難民」ではないんですけどね。
こちらで暮らす、本当の難民の方々は日ごろこんな扱いをうけているのでしょうか。


様々な環境におかれる生徒の家族に対する学校側の理解力のなさや、問題のある生徒の父兄の非協力的な態度。 人種差別問題。 足りない資金。  校内暴力。

今日や明日に解決する問題ではないのですが。


雨上がりの庭の片隅で咲く花にちょっと心を救われたような、そんな日でした。
by 4x4T | 2005-09-30 10:30 | 仕事
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