Once upon a time

秋の夜長に思うこと 2  ~スーザン~

学校が始まって何ヶ月かすると、私もスーザンもそれなりに友達が増えてきました。
まったく違うタイプの私たちなのでそうそう共通の友達はできず、アイスクリーム工場で深夜バイトをはじめた彼女は仕事仲間やその頃所属した地域の無声演劇グループとか詩人の会とかで、ちょっとエキセントリックな友達の輪を広げていったようでした。 
それでも私たちの友情は消滅することはなく、雨が降れば彼女の住む通りに迎えに行き、オレンジのカッパを着た彼女を拾って一緒に登校し、彼女はふいに私のアパートを訪ねてきてはとめどなくいろんな話をして、最後にはいつも将来のことを語り合いました。 

地元カリフォルニアの大学を1年で退学してから3年間自転車屋で働きながら、トライアスロンや登山キャンプなどをして過ごしていた彼女には、最初大学での勉強についていくのは少し大変そうでした。 
確かクリスマスを過ぎる頃までは私の方が成績は良かったように思います。 テスト前になるとむすっと無口になる彼女のスペイン語や物理や数学の補習を図書館でよくしたものでしたが、翌年にはいつの間にか追い越されて、それ以来彼女は常にトップの成績を維持していました。

月日は流れて、私はその大学で知り合った今の夫と結婚することになり、昼間仕事をするために夜間部に移り、後に別の大学に転校する為に引っ越した時は、彼女はちょうど冬休みの登山キャンプ中でそのまま言葉を交わすこともなく別れました。 次に彼女にあったのは、翌年の彼女の卒業式です。 
電話もない彼女とは連絡も取らずにいたのですが、卒業式には昔の仲間や彼女にどうしても会いたくて、夫と車で3時間かけて出席し、いつものボロ着ではなくアイロンの効いたガウンをまとい成績優秀者だけに渡される金色の紐タスキを肩からかけた彼女と写真を撮ったりしました。

「ななの卒業はいつ?」
「夏期講習が終わってからだね」

夜間部に移ったり、学校を移籍したりして単位を落とした私の卒業はあと2ヶ月くらい先になっていました。

「ミッション・コンプリーテッドだね」
「ななももう少しだね。」

大学卒業と同時に次の目的地、ニューイングランドを目指す予定だった彼女は借りていた部屋をすでに引き払っていて、大学の敷地内の草むらで2日間ほどテントで暮らしていたようでした。 
卒業パーティには案の定出席せず、私の渡した住所の紙切れをポケットに突っ込んで、「じゃ」、とそれだけ言って自転車にまたがった彼女は、こちらに向かってもう一回手を上げただけで、また旅立っていきました。 




昨日の日曜日の夕方は、また一段と涼しくなって、日の落ちるのも早くなったせいか、昼間は賑やかだった子供達の姿もなく、ひっそりとしていました。 
しまい忘れた子供のヘルメットを片付けようと素足のままポーチに立つと、コンクリートが思った以上にひんやりとして心地よく、しばらくそのまま暮れかけた空を、ばらばらに飛んでお向かいの屋根の向こうに消えていくムクドリ達を見上げていました。




あれからスーザンと会うことはまだありませんが、時折連絡は入ります。 
長男が生まれて私も大学院に復帰した頃、2つ目の学位を取る為に院に残っていた彼女から一冊の本が届きました。  ヨーロッパの哲学史か芸術史か何か、私にはさっぱりの内容の厚い本で、著者の大学教授の名前の下に連なったいつくかの名前の中にスーザンの名前がありました。 
それまでの長い経緯を説明する手紙と一緒に、「Mission Completed 1/2」とあるメモも入っていて、自分ひとりで出版したんじゃないからね、まだまだこれからよ、と言いたかったのだと思うと彼女の律義さに笑ってしまいました。  私も自分が大学院に入った時に、「Missions:To be completed」と書いたメモとお腹の大きいまま院生になった私の写真を送っていたからです。
「今度はもっと私好みの面白い本を書いてよ」と皮肉ったお祝いカードを送ると、忘れた頃に「絵本を書く予定は今のところないのよね。 Dr. Suesに頼んでよ」と返ってきました。

頻繁に連絡を取り合うことはなかったのですが、劇団員、広告代理店や出版社を経て、休みが長いからという理由でコミュニティーカレッジの教授に収まった彼女にメールアドレスができてからは、「ヨーロッパを周ったよ」、「新しい本のことを考えてる」、そんな一言メールが時折入るようになって、今も健在な彼女の生き方を垣間見るようでした。 子育てに明け暮れて、証券会社で働く夢はとうに忘れた私は、いつまでたってもこちらから「Mission Completed」のメールを送ることはなく、2人で語り合ったあの頃を思い出してそれを意識する時は、心の奥が少し疼く思いがしました。 

大学時代の私たちは、どこか夢見がちなところがお互いあって、そこに惹かれ合っていたのかも知れません。 それぞれの価値観もスタイルもまるで違った私たちがあそこまでお互いを受け入れられたのは、自由奔放な青春時代ならではの特権だったのかもしれません。 ただ、人生の分かれ道に立った時、彼女は迷わず自分の夢を選び、私は知らず知らずか結婚、仕事、そして家庭を選んだまでのことです。 私は自分の選んだ道が間違っていたとは思わないし、彼女の人生よりも劣っているとも思わないけれど、学生時代に思い描いた通りの道を突き進んでいるように見える彼女が眩しく思えるときはあります。




街灯がふいに灯って持ったままだった子供のヘルメットに反射し、気がつくとほんの短い間に辺りはすっかり暗くなっていました。 窓越しに奥のダイニングの子供達の声が聞こえます。

すっかり秋だなぁ… あの大学のオリエンテーションがあるころかな。 
スーザンは、この空を見上げることがあるのかな。  


無意識に子供のお風呂の用意をすることを考えながら、ドアに手をかけました。


私もそろそろ「Mission Completed 1/2」のメールくらい、送ってみようかな。
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by 4x4T | 2005-10-04 10:41 | 独り言
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