Once upon a time

Oh! Bento

「サンドイッチさー 飽きちゃったよ。 美味しくなくなった。 O-Bentoにしようかな」

涼しくて過ごしやすい一日が過ぎ、私のいる教室に顔を出した長男の開口一番がコレでした。
顔を上げた私と目が合うと、意味ありげにニヤッと笑って。 
私もつられてニヤッとすると、それを見たおばあちゃん先生が楽しそうに「なぁに、それ?」と聞いてきました。 今度お昼をご一緒して、この話をしてみよう。 先生だったらどう思われるかしら? 






長男がキンダーに通うようになった年だから、もう3年以上も前のことです。 

日本でいうなら幼稚園の年長さんの年ですが、5歳になった長男は、長女の小学校にあるキンダーガーテンにフルタイムで通うことになりました。 それまでも長女の送り迎えに付き合って、毎日のように私と一緒に登校していた彼は、やっと自分の番だとそれはそれは楽しみにしていました。 

日本のおばあちゃんから進級祝いとして送られてきた小包の中には、彼の喜びそうなキャラクターのついた小さな青いお弁当箱と、お箸とスプーンとフォークがワンセットになって、これまたお揃いの、祖母お手製の巾着袋に入っていました。 長女も日本の幼稚園に通った時からずっと今までお弁当なので、密かに憧れていた彼は大喜び。 その晩は真新しいお弁当箱を抱いたまま眠ったほどでした。

長男にとっては長い夏休みがやっと終わって、待ちに待った新学期です。 長女も弟が一緒に登校することになってはりきっていました。 

「サッカーボールのね! シャケでね!!」

サッカーボールとは、お弁当箱と一緒におばあちゃんから送られてきたおにぎりセットのことです。  丸い型と一緒にいろんな形の海苔が入っていてなんだろうと思ったら、それでサッカーボールのおにぎりが作れるんですって。 試しにおやつに作ってみたら、息子は「サッカーの味がする!」と大興奮でした。 興奮が冷めた後、冷静に考えた彼からの注意は、

「学校に持っていくんだから、もう使っちゃダメだよ。 なくなっちゃうからね。」 

「はいはい」と返事をしながら、これから始まる長男の学校生活に私も胸を膨らませていました。

新学期が始まった日のお弁当は、長男のリクエスト通りサッカーボールのおにぎり、キュウリ、前の晩に煮たマメ(和食党の長男の好物w)、ブドウ、厚焼き玉子と、少なめでシンプルなものでした。 道中知り合いの交通整理のおじいさんに会うと、横断歩道の真ん中で立ち止まってお弁当を引っ張り出して見せようとしてみたり、彼の学校初日はお弁当一色のようでした。
最初の3日間は私も一緒に歩いて登校したのですが、放課後学校の門前で私の顔を見るなり「お弁当全部食べたよー^▽^」と自慢げでした。 

そして4日目の木曜日。

我が家では、お弁当箱は帰ったらすぐ私と一緒に子供達が洗うことにしています。 
長女も日本式のお弁当をずっと持って行っていたので学校から帰ったら弟と一緒にお弁当箱を洗っていました。 ふと気がつくと、その日は一緒に帰ってきたのに台所で洗っているのは長女だけで、長男はリビングのカーペットの上でゴロゴロしています。 

「早く洗っちゃえば?」 

「んー…」

私の言葉にも生返事でいっこうに起き上がろうとはしません。
疲れているのかな、そう思って、彼のお弁当箱の入った巾着を持ち上げると思ったよりも重いのです。 蓋を開けてみると、私が朝詰めたままのお弁当が手付かずの状態でありました。

「どうしたのー? 全然食べてないじゃない」

「んー…」

「お腹空かなかったの?」

「ううん…空いたけど。。。」

「時間なかったんじゃない?」という長女の声に、そうかもな、と思いました。 

この学校の食堂で全校生徒が昼食を取る為には学年ごとに使用時間を分けなくてはならず、割り当てられた時間には制限があるのです。 PTAでも毎回取り上げられる問題なのですがこれといった解決案もなく、生徒が食堂に足を踏み入れた時間から退場まで約20分しかありません。  もたついているとあっという間に時間は経ってしまって、子供がやっと座って食べ始める頃にはほんの5,6分間しか残ってないこともあるんだと、娘もよくこぼしていました。

「食べる時間がなかったの?」

「そう。 時間なかったの。」

長男は床から起き上がることもなくそう答えて、その一件は終わりました。

金曜日は学校のメニューがピザの日です。 この日は特別に2人ともお金を持参して、学校でピザを買います。 帰ってきた息子も「今日は食べられたよ」と元気に帰宅しました。 


月曜日。

玄関先で子供たちを見送ってから双子のオムツを替えて、朝ごはんを食べさせました。
一段落ついてから玄関の掃除に出てみると、ドアの外に息子のお弁当の入った巾着が残っていました。 靴ヒモを結んでたりして忘れちゃったんだな。 そう思って、双子をベビーカーに乗せて大急ぎで学校に届けました。 お昼の時間に間に合ってよかった、とホッとしていたのに長男はまた手付かずのお弁当を持って帰ってきました。

お昼ごはんをちゃんと食べないと大きくなれないよ。 
お腹がすいてたらお勉強もしたくなくなるし、遊ぶ元気もだんだんなくなっちゃうんだよ。 
友達とおしゃべりとかしないで、ちゃんとお昼の時間はお弁当食べなさいね。 

私の言葉に悪びれもせず、息子は頷きながらじっと聞いていました。 

「あのね、他の人達を待たなくていいんだよ。 座ったらすぐ食べちゃっても大丈夫。 私はそうやってるもん」

長女のアドバイスにも素直に頷く息子に、明日はきっと大丈夫だろうと思いました。


火曜日。

同じ学校に通う近所の子供達はとっくに帰ってきたのに、2人の姿はいつまで経っても見えません。 
その頃住んでいた場所は、小学校からまっすぐ1本道で歩いて5分のところです。 
ドライブウェイから身を乗り出すと、ちょっと前まで子供たちでいっぱいだった道の向こうに学校の門が見えます。 玄関を出たり入ったりしながら、お昼寝中の双子を起こしてベビーカーで2人を探しに行くべきかどうかイライラしながら迷っていました。 やっと走ってくる娘の姿だけが見えます。 寝ている双子を気にしながら私も途中まで走っていって、長男はどこかと聞きました。 娘は泣きそうな顔で、ずっと待っていたのにいつもの待ち合わせの場所に来なかったと告げました。 
緊張で鼓動が高鳴り、双子を連れて車で探しに行こうとまた家までもどろうとしたとき、全然逆方向から息子がのんびり歩いてくるのが見えました。

「どこに行ってたの?! まっすぐ帰るお約束したでしょ。 心配してたのよ!!」

安心したのと同時に腹が立ってきて、思わず声を荒げてしまいました。

「ごめんね。 お弁当全部食べられたよ。^^ おいしかった。」

私の小言には答えず、息子は満足げに言いました。
ちょっと我儘で頑固なところのある長男は、自分が悪いと分かっていてもなかなか謝ることができないことがあります。 この日、家に帰ってからもう一度、どうしてまっすぐに家に帰ることが、待ち合わせの約束を守ることが大事なのかこんこんと言って聞かせる私に、彼はいつになく従順で、「はい、ごめんなさい。 もうしません。」、と素直に謝って、返って拍子抜けしてしまいました。


その次の日は水曜日です。

学校が終わる時間に子供達の帰りを待っていると、いつもより少し遅い時間に長女が息せき切って駆け込んできました。 息子がまた待ち合わせの場所に来なかったというのです。 

独立心の芽生えてきた息子の考えた反抗なのか。 まったく夫のいないときに限って…。

昨日息子が帰ってきた道は小学校とは正反対の方向で、裏の小さな公園に続く道です。 5歳でまだ1人で出歩くことのなかった息子の行動範囲は極々限られたものです。 公園かもしれない。  長女に寝ている双子を頼んで、私は小走りで裏の公園に行ってみました。 

案の定、パイプ滑り台の下に座った息子の小さな頭が私のいる道路からも見えます。 

やっぱりな。 

いいつけをしつこく守らない息子への苛立ちと、なんで1人でこんなところへ?という疑問が私の頭の中をグルグル廻っていました。 足早に息子に近づくと、今度ははっきり息子の姿が見えました。



息子は滑り台に座って、一人でお弁当を食べていたのでした。



足をゆらゆらさせて、TVで聞いたことがあるような曲の1フレーズを繰り返し歌いながら、のんきにおにぎりを食べていました。 声をかけるのをちょっと戸惑い、不思議に思ったことを聞くために私はやっと声をかけました。

「ひーくん、どうしてここで食べてるの?」

はっと気づいてこっちを振り向いて、とっさにお弁当を隠そうとします。 うつむいたまま、何を言っても返事をしないので、そのまま手を引いてうちまで帰りました。


家に着いてからわかったこと。

私の知らなかったことを自分が知っていたのが嬉しかったのか、娘が得意になって教えてくれたことを聞いて、私はやりきれない気持ちになりました。 


「変なランチボックス。」
「気持ち悪いお弁当だね。」
「君のお母さんは、どうしていつも変なものばかり作ってるの?」
「変な臭い! 吐いちゃいそう」


好奇心の旺盛なこの年頃の子供達が初めて目にする日本のお弁当の感想なんて、これが当たり前なのかもしれません。 それは私が知らなかっただけで、娘も通ってきた道でした。 気の強い娘はそんなことにめげることもなくお弁当を食べ続けたようで、やがてはクラスメートのそんなリアクションも時間と共に消え、悪質なイジメに発展するような根の深いものではなかったようですが、息子はそう簡単にやり過ごすことができなかったようです。

{学校でママのお弁当を食べるのは嫌だ。 でも、ママに作ってもらったお弁当を、おばあちゃんに買ってもらったお弁当箱を持って行きたくないなんて言えない。 どうして?って聞かれたら何て言おう。}

そんな思いがあったのでしょうか。 幼い息子の出した答えは、公園に隠れて一人でお弁当を食べることでした。 

学校の食堂で、居心地悪そうにだまって座っている息子を想像するとどうにもかわいそうになってしまって、担任の先生に長い手紙を書きましたが結局渡さずじまいでした。 
学校に助けを求めて、もしそれでこの問題が解決したとしても、この次何かあった時はどうなるのか。 自分で解決する術を学んで欲しい。 いろんな山を自力で乗り越える力をつけて欲しい。 それが私の出した、最終的な結論でした。 その代わり、ママはあなたの味方だからね。 どうしたらいいのか、一緒に考えていこう。

「明日はさ、ママのお弁当お休みにしてメリッサみたいなサンドイッチ持って行こうか。 ママは普通のランチだって作れるんだよー」

口をへの字に結んで私の顔を見たまま頷いた息子の目に、みるみるうちに涙が浮かびました。 

やっぱりなー…

娘の想像が間違っていなかったと確信すると、私までもらい泣きしそうになりながら、やっと笑顔で言いました。

「だーいじょうぶだよぉ。 ママのお弁当は今度海に行く時に持って行こ?」




私の教室に顔を出して、ニヤッと笑った息子はもう3年生です。 ちょっと我儘で、頑固なところは昔とあまり変わってないかも。 

あなたはこの3年間で、きっといろんなことを学んだね。 
ママはきっとその半分も知らないんだろうけど。

"O-Bento"なんて言っちゃって、大丈夫なの? そんな言葉が出そうになって、慌てて引っ込めました。 
ダメだったら。 やっぱりまたダメだったらそれでもいい。 また不味いサンドイッチになってしまうけどね。w  


「教室で騒ぐなよw」

なんて双子の世話を焼く長男が、今日はいつもの何倍にも大きく、頼もしく見えました。
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by 4x4T | 2005-09-07 09:19 | 今日の出来事
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